はとこといとこ
猫がゆっくりまばたきしているのは親愛の印



猫を見つけた時目を合わせてゆっくりまばたきすると



野良猫も逃げにくく触らせてくれる




七難って何だっけ

しちなん 【七難】
(1)〔仏〕 七種類の災難。特定の経典や仏・菩薩などによって避けることができるとされる。諸説あるが、「仁王経」では日月失度難・星宿失度難・災火難・雨水難・悪風難・亢陽(こうよう)難・悪賊難、「法華経」では火難・水難・羅刹(らせつ)難・刀杖難・鬼難・枷鎖(かさ)難・怨賊(おんぞく)難をいう。

(2)多くの災難、または欠点。
「色の白いは―隠す」

君の好きなフレーバーは何?
それだけは絶対選ばないから。

海外のアニメはいいなー、すごいなー、これでよく採算とれますよね、と素直に訊いたら、スタッフだった人に「だいたい20億円くらいの赤字ですよ、でも文化だからつくらせてもらえるんです」なんてサラッと言われて、ぜんぜん太刀打ちできないと思った。
Twitter / @bokuen (via katoyuu)

アニメに限らず。日本てお金かけないで良くやると思う。

ホキ美術館

ホキ美術館

うまいこと顔写ってない。デザインフェスタで見かけた椅子。

うまいこと顔写ってない。デザインフェスタで見かけた椅子。

結婚式前に知りたかったぜ

鳩の学校3

第三部 まめが欲しけりゃそらやるぞ

 

妻と出会ったのは、三十五年前の七月七日だった。妹の友人の一人で、他の娘の後ろに隠れて、目が合うと真っ赤になってうつむいた。数日後、私が笹を川に流しに行くと、橋で一人たたずんでいた彼女を見つけた。

「君は真由美の友達の…」

「猪原です。猪原淑子」

その時予感がした。きっと彼女と私は一緒になると。予感通り、私たちはその一年後結婚した。妻の淑子とは長年連れ添ってきたが今でもあまり笑わない。話しかける時も顔色を伺うようにしているし了解を得ると安堵した顏を見せる。妻はずっと何かを恐れているのだ。もう彼と会うこともないのに。

一介の数学教師であった私も年功序列というか、順当に校長職に就くことが出来た。わが校は進学校ではあるが年々専門学校に行く生徒が増えている。勉強以外にも大切なものはあるだろう。しかし単に勉学するのに環境がふさわしくないのではないか。それは行事と鳩がやたら多いせいだ。特に鳩。無性に苛立つことがある。ここ二、三年は害が増える一方だ。今年の夏、県から予算が降りた。徹底的に戦うつもりだ。

娘の朱美が孫の慎一を連れてやって来た。淑子が慎一を公園に連れて行き、朱美は学生気分で出かけた。実家が近いからと言ってすぐ頼るのは困ったものだ。しかしこれといって趣味のない淑子にはかえって良いかもしれない。慎一も淑子から童謡や物語を聞いて嬉しそうにしていた。公園はただそんな場所だった。

鳩の駆除は夏休みから行う予定となった。まず巣の駆除。また巣を作りそうな場所を工事することになった。住む場所がなければ奴等も退散するだろう。それでもダメなら捕獲して保健所に送るしかない。しかし予算には限度があるしそこまでは無理だろう。鳩よ、素直に立ち去ってくれ。六月には鳩の雛が孵った。女生徒が掃除中に雛を発見した。羽が折れていたので三日ともたずに死んだ。かわいそうと言っていたが、この夏鳩は校内から消えるのだ。

淑子は最近良く笑う。公園で仲間が出来たそうだ。あどけなく笑う。まるで童女だ。鳩が片付いたらどこかに連れていってやろう。仙台の七夕がいいだろうか。

私はあの日の笹を思い出していた。淑子は笹を見つめてこう言った。

「笹を、流すのですか?」

「ええ。もう七夕も終わりましたし」

「願いは叶いましたか?」

「え?」

「私は叶いました」花開くかのように彼女はほほえんだ。

私はそれを傷付けるものは許さない、そして彼女を守るのは自分だと確信したのだった。

 

今年も七夕が来た。笹を近所の人に分けてもらう。慎一も淑子と一緒に飾りを作る。

私は短冊に願い事を書く為の筆と硯を用意していた。

「ねえ慎さん。それじゃクルリと回らないわよ」色紙を折りながら、淑子が言う。

「だってこっちのがカッコいいや。マジック貸して!」

「慎一、墨を擦ったからこっちで書きなさい」

「えー。うわー、ぐにゃぐにゃするよ。変な顔」筆を使うのは始めての慎一は、指を真っ黒にして顔を描いた。

「コラ捨てちゃダメだぞ。自分で描いたものだろ」

短冊に妻は家内安全と書き、私は心願成就とした。慎一はサッカーがもっとうまくなりますように。

夏休みが始まろうとしていた。生徒は浮き足立ち、教師は学期末の忙しさに追われていた。台風さえも来ていた。暴風波浪警報が出て休校になった翌日、体育館の屋根が破損していた。風で屋根の端が曲がってしまい変な隙間が出来てしまった。バレーボール部の生徒が朝練中に鳩が巣を作ろうとしているのを見たらしい。ちょっとした隙間でも、奴等の巣になる。家に帰るとバターの匂いがした。大量のポップコーンだった。久々に食べたくなって、とフライパンで炒ったらこんなことになってしまったらしい。最近ちょっと様子がおかしい。母さん恋でもしてるんじゃないのと朱美が茶化した。

鳩の駆除は八月八日に行われることになった。もうでかい顔はさせない。学校は学び舎なのだから。つい興奮して食事中に大声をあげてしまった。妻は驚いて真っ青な顔で私を見つめた。

その夜奇妙な夢を見た。あの七夕の晩で淑子は橋にもたれ待っている。私が近づくと、嬉しそうに持っていたポップコーンを投げつけた。やめてくれ。ますます投げつけた。いつしか妻の隣には男がいて一緒に投げつけてくる。ほーら、お食べ。お腹すいたでしょ。男の顔を見て、愕然とした。男は私だった。

妻と鳩。全く関係ない。どうしてこんな夢を見るのか。公園に行く妻をこっそりとつけた。何かあるはずだ。妻はベンチに座り、何かを待っている。鳩か?どこからかポップコーン屋が来る。若い男のようだ。妻とはもうなじみのようで、何か楽しそうに談笑している。淑子はそれを買うと、ベンチで一人食べ始める。鳩がどこからか群がって、えさをねだる。しかし淑子は遠くを見つめ、一つも鳩にはやろうとはしない。その時一羽の鳩がポップコーンめがけて妻に近づいた。あっと言う間に鳩に囲まれる。妻の顔が見えない。私は走って行くと鳩を追い払った。妻は何故か「あら、お父さん」と恥ずかしそうな顔をしていた。家路について聞いてみると、ポップコーン屋が知り合いの息子で時々話をするのだという。だがその知り合いの名前は出さなかった。

ついに鳩の駆除の日が訪れた。鳩が巣を作るような吊り下げ式の蛍光灯をすべてはずした。埋め込み式に工事する。巣は撤去し、鳩が入らないようにネットが出入口に付けられた。作業員が巣を持って来た。

「どうします?」

巣には卵と雛がいた。親鳩は外でクルッポーと鳴いていた。何か気の毒にも思えた。仕方が無い。どこかに仮の巣でも設置するか。

「校長、私が処理します」

生物担当の熊谷だった。

「そうか、頼みます。ヒナが孵るまでもう少しかかりそうだし」

「いえ、処理します。このまま孵したのでは、元の木阿弥ですよ。保健所に電話します」

「だがしかし、動物愛護の精神は…」

「校長、今回は害獣駆除でしょう。中途半端なことをしても意味がありません」

ヒナを見る。そして卵。何かを思い出しかけた。卵のまま孵らずに、そのまま流れてしまう、笹…願い。

「ダメだ。私が引き取る。頼む、殺さないでくれ」

熊谷は驚いていたが従った。あの笹の願いは、あの人に迷惑がかかりませんように、だった。

あの人とは妻の思い人、彼女の義理の兄だ。妻はきっと彼を待っている。しかし、彼はもう何年も行方が知れなかった。ひそかに妻に連絡して公園で逢引を重ねているのか。

嫉妬と恐れが私を支配する。若き日の、繊細で鋭角な彼の印象だけが何度となく蘇った。

私は自ら妻を誘い、近所の公園に連れ出した。妻はやはり恥ずかしそうにしていた。

一緒に出かけて下さるなんて久しぶりですね、と服を選ぶのにも時間をかけた。兄と遭遇しないように時間をつぶしているのか。やっと出かける頃には太陽が一番高い所にいた。いつものベンチに座り、ポップコーンを買う。売り子の若者に淑子とはいつもどんな話をするのか聞いた。

「他愛もない話ですよ。俺の夢がアメリカに行くことなんですけどね。それをいっつもニコニコしながら聞いてくれるんです」

聞くと近所の峯岸さんの息子さんだという。

「お袋が恥ずかしがるんですよ。いい年してって」

淑子は私達をまぶしそうに見つめていた。

「贅沢ねえ。こんな息子、欲しかったわ」

朱美は結婚して十年経ってからの子だった。もう子供の誕生を諦めていた私達は娘を何よりも大事にしたが、結婚して早々に家を出た。朱美のほかに子どもは出来なかった。

「あの時の赤ちゃん、男の子だったんです」ぽつりと言う。

「だから私のせいです。ごめんなさい」

「慎一がいるだろう。謝るな」

私は何年ぶりかで妻の手を握った。あの晩も手を握っただろうか。冷たくて柔らかい手だった。

夏休みが終わって学校から鳩は消えた。あのヒナも死んでしまった。もう誰も鳩のことなど考えない。時々カラスがやってきて騒がしいくらいなものだ。鳩の死体は土に還っていく。あじさいの花の色は、何色になるだろう。カラスは鳩を殺せたものの、学校に巣くうことは出来なかった。今日もどこかの結婚式で、大量の白い鳩が大空を舞っている。

 

鳩の学校2

第二部 カラスなぜなぜ黒い?

六月五日 月曜日 晴天

中間テスト終了。文化祭関係の委員会あり。この学校には生物部は無いが、自然科学同好会があるので顧問として指導しなければならない。早速部員に掛け合ってみる。

六月六日 火曜日

あじさいが満開となった。学校の土はアルカリ性らしい。うすい赤い花がどんよりした空に映える。採点のための球技大会で、生徒たちは伸び伸びとしていた。花の色など気付かない。

六月七日 水曜日 大雨

雨の日は遅刻の生徒が増えるので困ったものだ。普段自転車で通っている生徒が大半だから無理やり雨の日も自転車で来ようとする。遅刻か事故か、良く考えてもらいたい。

六月八日 木曜日 晴れ

放課後、校内循環の際鳩の死骸を発見。猫だろうか、首勁椎に鋭い切り傷があった。猫に関しては生徒も職員も苦情がないと言うのに、鳩に対してはヒドイものだ。

鳩の方が不衛生であることは確かだが。本来なら事務員に片づけてもらうところだが、中庭の軟らかい土に埋めておいた。土に還ればヒトも猫も鳩も変わらない。

六月九日 金曜日 曇

鳩よりも最近はカラスが増えてきたように思う。鳩よりも体の大きいカラスは生徒に直接危害が及ぶ可能性もある。鳩ではなく、カラスが廊下を歩くのは何となく不吉だ。私もカラスには同じ土に還るものという感じを受けないようだ。何故だろう。身勝手なものだ。
 自然科学同好会の活動に参加。意見は出るもののコレだというものがない。

結局月曜までの課題とした。
六月十日 土曜日 雨
 半日を寝て過ごす。午後から採点の続き。全体に食物連鎖は出来が良いが、卵割は苦手なようだ。プリントで暗記すべきモノを確認させよう。PCで作成。意外と時間を食った。

六月十一日 日曜日 曇 

採点が終了。平均点は例年並か。

夜中実家から電話があった。松山が亡くなったそうだ。実家の稼業を継いで頑張っていたのに。通夜は今日。明日葬式らしい。

六月十二日 月曜日 晴れ 

午後から休みをもらい、郷里に向かう。新幹線に乗るのも久しぶりだ。見慣れたはずの光景だったが、この二、三年で大分変わった。都内にしかなかったチェーン店が駅前に林立している。タクシーで実家に帰る。こんなことでもない限り、中々帰れないのだから皮肉なものだ。和宏がバイトだなんだと慌てて出ていった。自分もあんな風だったかと思うと笑えた。

六月十三日 火曜日 晴れ

松山の葬式は平日にも関わらず多くの同級生が顏を出した。地元就職組も多かったからだが松山は死んでもなお人を集めてしまうということか。本田すずが来ていた。松山と一高ベストカップルに選ばれた彼女は、ずっと不思議な微笑みを浮かべていた。人間本当に悲しいときは笑うというからな。

午後から仕事に戻る。科学同好会のテーマはゴミ問題らしい。無難だが身近なテーマではある。柔道部にも顏を出した。久々に身体を動かすのは気持ちよい。松山とも高校の時、一度授業で組んだことがある。しかしあんな田舎で単独事故なんて。まだ信じられない。
六月十四日 水曜日 曇
 定例会議が長引いた。鳩駆除の予算が県から出たので、夏休み期間中の部活動の調整が必要になる。柔道部は武道館だが、体育館の駆除と同時に三日間の活動が禁止になる。大会前と被る部活がないように、慎重に日程が検討された。

帰宅すると、女の声で留守番電話が入っていた。熊谷くんにいい忘れてたことがあって電話したんですけど、あの、直接言ったほうがいいと思うからまた電話します。いいですか?慌てているのか名前も言わずに切れた。誰だ?

六月十五日 木曜日 雨のち曇

少し寒い一日となった。梅雨になると、昔突き指したところが痛む。今週から実習生が来ている。生物はもちろん、理科系科目は一人もいない。人気がないことだ。理科離れは実際深刻なようだ。留守電にまた電話。驚いた。本田すずだ。

六月十六日 金曜日 晴れ

ひどく暑い日だ。昨日との寒暖差が激しい。体育祭の応援団が決定。これから学内が騒がしくなる。本田とやっと連絡が取れた。明日の夜会うことになる。

六月十七日 土曜日 晴れ

午前中は修学旅行関連で業者に会う。パンフを抱えて行くと、本田は傷心旅行には日本海だと言った。もう個人では旅行に行けそうにないと言うと、うなずきながらもそれじゃあ旅行の醍醐味がないねと笑った。不思議だ。彼女は集団に愛されているように見えたのに。

今は菓子の販売をしているという。鳩の形のアレよ。お土産に一箱もらった。

ねえお葬式って変ね。皆カラスみたいに真っ黒なのに、鳩みたいにちょこまかおじぎしちゃってさ。見かけばっかカッコつけて中身はダサダサだよ。そうかな?違う?それなりに大人になるってことじゃないかな。大人ねえ。確かにそんな年だわ。でも本田はあんまり変わらないけどな。うふふ、ありがと。

結局松山のことは分からなかった。

六月十八日 日曜日 雨時々晴れ

降ったり止んだりの嫌な天気だ。ぼんやりと本田と鳩のことを思った。

カラスより鳩を嫌いな人間もいるのだ。

しかし、学校も世の中も鳩ばかりか。

六月十九日 月曜日 曇

 今日の3時間目の授業中、鳩が廊下を歩いていた。校内もすでに鳩の巣窟なのかと思うとウンザリした。女子生徒が一人、貧血で倒れた。あとで保健室に様子を見に行くと、鳩が気持ち悪いと言った。思わず、カラスはどうだ?と聞くと心底嫌そうな顔をして、カラスは大嫌いだけどしょうがない、と答えた。どういうことだろう。

六月二十日 火曜日 雨

本田から呼び出された。横浜のカフェバーだった。ぽつぽつと本田は語りだした。

豊のこと、どう思ってた?明るくて、誰とでも仲がいい調子のいい奴?あの子ね、必死だった。真っ黒い制服で、自分をがんじからめにしてた。豊かはね、あの頃から鳩みたいに愛想振りまいてたんだよ。バカみたいじゃない?その後彼女はやたら飲んだ。泣かなかった葬式が、あの微笑みが信じられないくらいだ。

ねえ、頼みがあるの。コレね、豊。白い粉だった。カクテルに溶かす。飲んで。ねえ。飲んでよ。熱っぽい瞳がまっすぐ見ていた。何かに似ていた。ゆっくりと飲み干すと、彼女は満足して眠ってしまった。彼女の家が分からず、一晩泊めた。今朝、仕事だと告げ出て行った。本田を抱きたかったが出来なかった。松山のせいじゃない。鳩という言葉が気になっていた。

おそらく飲んだのは松山の骨だ。松山は何故死んだ?本田は何故会いに来た?

六月二十一日 水曜日 晴れ

彼女は部屋に携帯電話を忘れていった。鳩のシールが貼ってある。鳩が急に憎たらしく思える。何が鳩だ。親しげな顏をして。本田は俺たちをカラスの面をかぶった鳩よばわりしていたが、間違いだ。俺たちは鳩の面をしたカラスで、親しげに近づいてずる賢く奪うことしか考えちゃいない。鳩ではなく、カラスだったら俺は土に還そうとしなかったはずだ。鳩め。
六月二十二日 木曜日 嵐
 台風だった。昨晩電車がとまると不安だからと本田が来た。携帯電話のシールを指差すと、髪をかきあげて苦笑していた。

鳩は嫌いじゃないの?嫌いだけどね。

でもあたしはバカだから、鳩でいいの。

そんなこと言うなよ。あたしを抱きたい?ああ。でもきっと後悔するよ。しない。

抱きしめると震えていた。

六月二十三日 金曜日 快晴

置き手紙があった。

豊はあなたが好きでした。そして私は豊が好きだった。死ぬ前に一度だけ豊と寝た。私はあなたになろうと必死だった。そうすればお互い幸せになると思ったから。

でも豊は私とあなたがしてるような気になって、おかしくなった。私がしようって言わなければ、まだ生きてたはずなのに。私はあなたが何も知らないことに腹が立っただけなの。

だからあなたを豊の身代わりにしました。ごめんなさい。でも熊谷君は全然違った。

あなたは鳩じゃないものね。

もう会わない。さよなら。

そして鳩のシールだけが床に落ちていた。

六月二十四日

体育館内で鳩のヒナが孵った。母親は気がたっている。

ふと母親と目があった。本田、鳩はおどおどなんてしていない。

君にそっくりな瞳をしている。

鳩の学校1

体育館は恐怖の場所だ。校長の話より誰もが天井に見入ってるからだ。

羽ばたき、悲鳴、落下する。初期のゲームのように生徒は糞を避けて移動、これで朝礼は終了。

第一部 鳩に豆鉄包


腹減った。あと5分で鐘が鳴る。もう終わりにして欲しい。

まだかな。今日購買行かなくちゃなのに。何にしよかな。

こないだ食べた納豆パン悲惨だった。アレヤバイってマジ。

あー、テスト出るのかなコレ。中間マズカッタもんな。
鐘が鳴った。
「よっしゃ!」
「購買行くっしょ?あずさ」「行くでしょ。当然」

ダッシュ。1年は三階だから一階は近いけどね。体育帰りとかで人いっぱいいるし。
「あずさ普通に早過ぎだし」

ナッツの声。まあね。元陸部をなめちゃいけない。と、ヤベ。

「廊下は走らない!」

職員室のある二階の階段で怒られた。うへ。仕方ないから次の階まで歩く。

あー、チュロス売切だよ。
一階に着くと、もう人がいっぱいだった。今日は三つ買おう。焼そばパンとコルネとピロシキ。合わせてサンパチか。飲み物はブリックで済ますかな。
突然羽音。ハトだよ。カンベンでしょ。悲鳴。あたしのパン。カーン並みに死守。
ヤツラは別に飯が目的だったわけじゃないみたい。

ただ中庭に行きたかっただけみたいだ。驚かせやがって。
てな感じが私上村あずさの毎日です。

「あずさマジ陸部入ればいいのにー」
ナッツこと立花夏実。同中だから三年前から友達。
「イヤもう高校生ですから今更もういいっしょ」

「いやイクっしょ、そるが男でしょ」

「そるって。しかもど見ても女でしょ。女子でしょ」

「いやしかしハトには参りましたね」

「話のつながりねえ!ま、いいけど。確かに私のピロシキが危ないかと」

「素晴らしき食欲だわ」

「ま、ね。あんなにハトいたっけね。増えてない?」

「アレじゃん。体育館で増殖中」

「カビっぽいな増殖中


うちの学校にはハトが巣くってる。

入学式でいきなりハトとご対面。だまされた!と思った。

もう三か月以上経った今じゃ気にならないけどね。

天気の話するみたいなもんでハトつーのはウチラの日常にどっぷりはまってたから。


「今日から駅前のルミネバーゲンすよ、姉さん」

「いやイカン。わっちは部活でしてん」

「それは何、また神山先輩すか。あずささんたら乙女」

「がっつん乙女ですよ!」

「ありえねー」
陸上部期待のエースは最後の大会故障をきっかけに陸上から足を洗った。

で高校で華々しく文芸部で再デビューつーかミーハーな理由です。

はっきり言って本なんて読書感想文と教科書しか読んだことない。

神山信司がいなかったら入りませんでした。

「んじゃね!また明日」

「宇多田のアルバム忘れんといて。ほなね~」
さって文芸部は図書室で活動中。

私はと言うとあまりにも知識ないんでジュニア文庫から始めてます。

赤毛のアンや嵐が丘や不思議の国のアリス。あと漢字検定の勉強。あ。
「鳩」
ハトってこういう字だったんだ。
「何!何処?俺の敵は?」

「あ、違います。漢字練習してたら出て来て」

「何だよ~。焦らせないでよ。本当に最近の奴等と来たら目に余るからね」

 「目に余る?」

「目で見られない程ひどいってことさー」

「知ってましたー」

「嘘つけ」
これが私の至福の時間。

神山先輩は帰国のクセに日本語キビシイ。お母さんが日本語教師やってるからかな。

全然文学っぽくない見かけだし言ってることも時々ワケわかんないけど、

でもまあそんなワケです。
鳩。九に鳥か。漢和辞典で調べてみる。

鳩は集まるって意味もあるのか。だからあんなにいっぱいいるのかな。

「鳩ってケンカするとどっちかが死ぬまでやるらしいよ」

「いやでもさ。鳩よりも最近烏の方が増えて来たような気がするね。電柱に群れなしてたよ、授業中」

「神山、授業の時は鳩のことは忘れなさい」

とコレは文芸部顧問の島崎先生。趣味は川柳。

「先生こそ鳩対策委員じゃないですか」

「カラスに追いかけられた話こないだしてましたよね」

「追いかけられたわけじゃなくて、頭を踏み台にされたんだよ。あれはかなりの恐怖だったぞ」

「先輩」

「何?愛の告白?」

「・・・のど乾きません?」

「うん。野菜生活ね」

「あずさちゃん大好きっ。私、午後ティストレート」

「よし上村。先生にリアルゴールド。採点疲れがたまってるんだよな」

「いやー1年生万歳!じゃポカリ。無難に」

笑って立ち上がる。でも。ヤバイ。やばい。息が。叫びたい。喉が。貼りつく。視界が揺らぐ。走り書きのメモがグチャグチャになる。ドアを閉めようとして足がもたつく。吐き気。昼に食べたパン。手からクリームの匂いが。神山先輩が気をつかって一緒に行こうとするのをかろうじて断って。トイレに駆け込んだ。
原因は中三の最後の大会前日のロードワーク。いつも自宅に戻って夕食後に近くの公園の周りを走った。その日はうまく集中出来なかったのでいつもより多めにメニューを組み替えたりしていた。
九時半。いつもならお風呂に入って寝る時間。親は休めって言ったけど、身体を動かさずにはいられなかった。最後の一周を終えて坂道を下って帰宅するところだった。なんとなく後ろに気配を感じた。良くある勘違いだろう。そう思った。単に急いでる人なんだ。またはロードワーク仲間かもなんて。でも。

ぼっくらわみんないっきているぅ いきているから うったうんだぁ
だんだん大きくなる声。スピードをあげた。(最近多いんだって)

おかあさん(三浦さんとこのお姉さんなんて)

ヤバイよ(もう夏だからねえ)たすけて
てっのひらを たいよおに すっかして みればぁ
やだやだやだやだ(足速いから平気だよーだ)あの角曲がれば。まぶしい。

オートバイだった。とっさに振り返る。コンビニで良く見る人だった。

ライトではっきり顔が分かった。
オートバイの急ブレーキの音で最後のダッシュを掛けた。
 結局大会は散々だった。後ろから追いかけてくる人がいるだけで吐きそうになり棄権した。警察に色々聞かれた時には顏が分からなくなっていた。

あんなにハッキリ見たのに。皆優しかった。私はやたらぼおっとしていた。


追いかけるなんて言葉ごときで反応するのは、丁度この位の時期だったからかな。

過呼吸になったのでハンカチで少し押さえこむ。

一息ついて、トイレの匂いでまた気持ち悪くなった。飛び出して、深呼吸。

何か落ちた。皆の注文が書いてあるメモ。そうだよ、飲み物買いに行くんだ。

階段をわざと飛び跳ねながら降りる。こっちは東棟だから、この時間はあまり陽が射さない。グラウンドからは運動部の声がする。アイトー、アイトー。

自販は一階の西棟だから中庭をぶっち切って行くのが早い。窓をそろりと開けて。
その瞬間、黒いモノが縦に落下。何?カラス?

やっぱり。

すぐにカラスは飛び立つ。変な飛び方しやがって。

なんとなくイヤな感じがして、ちゃんと回っていくことにした。窓を閉め・・・あたま。

ハトの。から血が出てる。くびが。きれて。見てる。目が。空っぽの。あ。
私はあの時の男の顏をやっと思い出したのでした。

つづく